年次大会 2004Karin Klose, 13.01.2005
2004年11月: ジェンダーの原動力とグローバル化・日本及びアジアにおける
現代社会科学学会年次総会がベルリン日独センターにて開かれ、この会議を企画準備したクライツ=ザンドベルク(Dr. Susanne Kreitz-Sandberg 、デユッセルドルフ大学)とデリックス(Dr. Claudia Derichs 、デュースブルク・エッセン大学)両氏は、グロバリゼーションの影響下での日本におけるジェンダー秩序のダイナミックな変化を、さまざまな社会科学部門の立場より考察すると同時に、日本を超えて他のアジア諸国にフォーカスを広げた比較考察を試みた。 2004 年度の年次総会にアジアをテーマとして取り入れたことにより、未開拓の領域に踏み入ったわけであるが、反対にジェンダーというテーマとの取り組みは、ワークショップ「日本のジェンダー研究」にみられるように、現代日本社会科学学会が長い伝統を誇るものである。
第一セッション「 Gender as Theore-tical and Empirical Challenge for Cultu-ral Studies and Social Science Research (文化・社会科学研究に対する論理的・経験的課題としてのジェンダー)」において、前美智子教授( Dr. 、デュッセルドルフ大学)は、日本の近代化過程において、ジェンダー秩序がいかに強く国のアイデンティティーに結び付けられたかを指摘した。目下ジェンダー・フリーという新造語で論議されているように、既存のジェンダー秩序の変化は、保守勢力にとっては国家のアイデンティティーと日本社会秩序の重要な基盤としての家族に対する攻撃を意味する。これに対してすでに 70 年代より、女性たちによって国家的役割制限が批判的な視点で論議され、超国家的意識が発展した。レンツ教授( Prof. Dr. Ilse Lenz 、ボッフム大学)は、日本社会は、ジェンダーがますますリレーショナル(関係を示す)カテゴリーとしてみなされる根本的な変革渦中にあるとみている。ジェンダー間に境界線を引くことは、もはや絶対的ではない。再帰的近代化において国家や家族、そして国の支配的なジェンダー秩序は、ますます疑問視されるようになっている。
シャド=ザイフェルト博士( Dr. An-nette Schad-Seifert 、ライプチッヒ大学 ) は、日本男性による研究を紹介した。この研究に誘発されはじまった議論において、社会変化過程――クロバリゼーション、就労社会の侵食、女性の同等関与に対する要求など――で男性が新しい役割モデルを発展させなければならないことがとくに強調された。反対に、社会政策と諸機関の構造がジェンダー関係における真の変化を阻止している事実は、ほとんど注目されていない。男性研究者であるモイザー博士( Dr. Michael Meuser 、デュースブルク・エッセン大学)は、ドイツでも役割と就業模範が侵食しており、ジェンダー秩序の新構築に対する納得いくモデルが今日まで欠けているために、男性が個人的に解決せざるを得なくなっている現状をコメントとして述べた。
夜に行なわれた記念講演では経済学者大沢真理教授(東京大学)が、日本のジェンダー関係での変化に対する耐性を指摘し、その社会経済的原因を述べた。男女の同等関与について日本社会に幅広い社会的議論があり、また(政府顧問として教授自身も関与する)相応の政治的プログラムや法律が存在するにもかかわらず、未だこのような耐性が観察されるのである。既存の社会制度は、相変わらず男性一人が稼ぎ手である家族を優先し、ほかの家族形態は社会・年金法において明らかに不利な立場におかれている。社会制度に支えられた古い役割モデルと、経済・社会的発展のあいだには大きな矛盾が存在し、若い就労者たちはもはや古い役割を満たし得ず、新しい役割を探すうえで助けも得られない状態におかれている。
日本と東アジアないしは東南アジアにおけるジェンダーを扱った第二セッションでは、トムソン教授( Prof. Dr. Mark Thompson 、エアランゲン・ニュルンベルク大学)が、第一パネルディスカッション「 Breaking through the Class Celling (ガラスの天井を打ち破る)」において、アジアにおける女性政治指導者に関する研究を紹介した(デリックス氏と共同のドイツ学術振興会・DFGプロジェクト)。本研究のために、伝統主義的で家父長制社会制度を有する諸国より 14 人の女性政治家が選ばれたが、その全員が政治家を多く輩出した一族の出であり、また殉教者の寡婦あるいは影響力ある政治家の娘として重要な公職についているケースが多かった。女性を指導者に決定する場合には、一族内でジェンダー・ステレオタイプに基づいて、また伝統的な女性の役割モデルに沿って行なわれてきた。そうした女性たちの課題は、象徴としての役割を務め、象徴として国を代表するところにあるとみなされ、統治することではない。
イスラエル教授( Prof. Lorna Israel 、フィリピン・ミリアム・カレッジ)の基調報告では、コラソン・アキノとグロリア・マカパガル=アロヨというフィリピンの二人の女性大統領の政治経歴が紹介された。イスラエル教授もまた「両大統領はとくに女性のステレオタイプに沿った象徴的な指導者として国家統一の象徴として国を代表している」と明言した。しかし、ティオウロン氏( Saumura Tioulonng, ASRP Wo-men's League Kambodia )は、政治組織にいる女性たちを、たんに彼女たちの父親や夫に依存する存在という一方的すぎる見方に反対するコメントを述べた。なぜならば、彼女たちが野党のリーダーと結婚している場合でも、自身の政治目標追求のために、女性として独自の見方や行動戦力を取り入れているためである。
このセッションの第二パネルディスカッション「 Japan Within Asia - Asia Within Japan: Women's Strategies and Discourses (アジアのなかの日本、日本のなかのアジア――女性の戦略論説)」において、ゲルマー博士( Dr. Andrea Germer 、東京ドイツ日本研究所)とヴェア教授( Prof. Dr. Ulrike W r 、広島市立大学)は、日本の女性フェミニストたちにとって難解な問題――すなわち日本がアジア近隣諸国に対して侵略国として振舞った大平洋戦争での日本女性たちの役割――と取り組んだ。ここでは、日本の軍隊によって性的奉仕を強制された強制連行慰安婦問題が中心となった。
フェミニズム史の研究家である高群逸枝氏は 50 年代において、日本女性を性的に搾取された戦争犠牲者とみなし、強制連行従軍慰安婦問題に触れなかった一方、彼女の同僚である山崎朋子氏は 70 年代に侵略国としての日本の役割も考慮し、このテーマと取り組んだ(ゲルマー博士)。 90 年代にはパラダイムの重要な変化が起こり、「慰安婦」(日本の軍隊が強制連行売春婦につけた婉曲的な名称)問題は、もはや売春ではなく、強姦として理解されるようになった。日本のフェミニストたちによって日本の枠を超え、今では韓国やアジアの被害者たちと直接議論するようになっている(ヴェア教授)。このパネルディスカッションの最後の基調報告で鄭暎恵教授( Prof. Yeong-hae Jung 、大妻女子大学)は、東アジアから日本に移民した女性たちの生存戦略を取り上げ、そのなかで、社会に同化させるための日本国家の努力が欠如しているととくに批判した。
二日目の午後には、四つのワーキンググループに別れて会議を行なった。各グループのテーマは、レッヒェンベルガー氏( Daniela Rechenberger 、トリア大学)とゲスマン教授( Prof. Dr. Hilaria G os smann 、トリア大学)が担当する「ジェンダーとメディア――日本における韓国の自己表現」、ボッフム大学のホン氏( Mihee Hong )と田中ひろみ氏による「 Globalization of Gender Politics in East Asia (東アジアのけるジェンダー政策のグローバル化)」、クライツ=ザンドベルク氏とマンツェンライター博士( Dr. Wolfram Manzenreiter 、ウイーン大学)およびギンペル教授( Prof. Dr. Denise Gim-pel 、コペンハーゲン大学)による「東アジアでの教育とスポーツにおける<男らしさ>と<女らしさ>の構造」、バイヤー氏( Marie Sachiko Baier 、ウイーン大学)とオフレネオ教授( Prof. Rosalinda Pineda Ofreneo 、フィリピン・ディリマン大学)担当の「 Working Women's Networks in Times of Globalization (グローバル化の時代における働く女性のネットワーク)」である。
第三セッション「 Gender and Organization in Transition (変遷のなかのジェンダーと組織)」は、軍隊とジェンダーに関するパネルディスカッションではじまった。日本の自衛隊を調査したフリューシュトゥック教授( Prof. Dr. Sabine Fr uh st uc k 、カリフォルニア・サンタバーバラ大学)も、また国連平和部隊を研究するベン=アリ教授( Prof. Eyal Ben-Ari 、エルサレム・ヒブル大学)も、「兵隊たちは自己を戦士として認識する一方、国内や国際的な出兵では協力者・保護者たることを求められ、その狭間で葛藤状態にある」という結論に達した。安全保障のための特殊訓練を行なう国は、現在までのところごく僅かに過ぎない。
シア教授( Prof. Dr. Karen Shire, ドュースブルク・エッセン大学 ) の司会によって行なわれた締めのパネルディスカッション「 Gender Perspectives on the Welfare State and Employment in Change (変遷中の福祉国家および雇用におけるジェンダーの展望)」では、ドイツと日本の既存の社会制度が、依然として男性一人が稼ぎ手で、ほかの家族構成員が依存する伝統的な家族モデルを奨励していることが改めて明らかになった。アジアの多数の国々では、グロバリゼーションは女性にとってチャンスとなるばかりでなく、たとえば低賃金の予備労働力として、あるいは強制されて他国で性産業に従事するといった新しい搾取の危険も秘めている。
会議中のすべての基調報告で、ジェンダーがほぼすべての政治分野と調査した国々の社会的討論においてアジェンダとして取り上げられている事実が明らかになった。国際的な組織やネットワークの圧力も高まるなかで、ジェンダーに適った社会構想を発展させ論議されるようになっている。しかし現状では、実践面にこのことがほとんど反映されていない。なぜならば、耐性の強い制度構造が速やかな変化を阻むためである。教育と規範的な社会の期待によって培われた保守的役割モデルは、日本でも、またほかのアジア諸国でも、依然として大きな影響力をもっているのである。しかし、こうした現状を考察する際に、ジェンダー分離は差別と同一視されてはならず、他社会のモデルは綿密に分析されなければならない。本会議での基調報告は、そのために非常に貴重な比較考察の基盤を与えてくれた。
注:文中、英語で挙げられるセッションは英語で開催した。
カーリン・クローゼ
(Karin Klose)
ベルリン自由大学 ニュース