年次大会 2001Anja Osiander, 13.12.2001
現代日本社会科学学会は、2001年12月13日から16日までベルリン日独センターにて第13回年次大会を開催いたしました。大会テーマは「ニューメディアの時代における日本とドイツ」で、このテーマに沿って11の講演が行われました。また6つの部会が設けられ、それぞれ個別プログラムについて議論が行われました。さらに学際的なワークショップが、「ジェンダー研究-中国、韓国、日本の比較から-」、「IT技術と日本企業の構造」の2つのテーマで開催されました。会議報告は以下をご覧下さい。
現代日本社会科学学会2001年度年次総会「変化の対象および原動力としてのメディア」 2001年12月13日~16日
現代日本社会科学学会(VSJF)は2001年12月13日から16日まで、ベルリン日独センターにおいて2001年度の年次総会を開催した。総会に付随するプログラムは多岐にわたるものであり、二つの学際的ワークショップが開催された。ひとつのワークショップでは比較ジェンダー研究の視点より日本、中国、韓国におけるジェンダー間の力構造とジェンダー関係が考察され、もうひとつのワークショップでは日本企業の構造とプロセスにIT技術がどのような影響を及ぼすかを規制・組織理論の視点から取り上げた。また、年次総会会期中に六つの専門グループに分かれたグループ会議も開催された。本会議では「変化の対象および原動力としてのメディア」を主題に11の基調報告が発表され、パネルディスカッションも開いた。このように内容豊富なプログラムの実施が可能になったのはベルリン日独センターによる資金面、組織面、ロジ面での多大な援助だけでなく、日独文化関係振興協会(在ケルン)と DoCoMo Europe S. A. から一切の官僚主義を排して多額の寄付をいただいたお陰である。以下の報告では本会議のみを取り上げるが、年次総会全体については現代日本社会科学学会のホームページに詳細報告を掲載した。
文化科学もしくはメディア学の視点による三つの基調報告をもって年次総会の幕開けとなった。アーペル氏(Ulrich Apel、大阪大学)は、まず日本における未来計画構想でのメディアが果たす役割について概要を述べ、メディアが未来像を伝えることで未来の社会構造のいわば自発的に生じる「計画構想」に果たす役割をとくに重点的に取り扱った。これに対してレアー助教授(Marc Löhr、山口大学)は日本の新聞メディアが権力政策と市場政策を強く指向する様子を明らかにした。レアー助教授はこの現象を、とくに日刊紙市場での集中傾向によるものとみている。この集中傾向は歴史的に形成されたものでもあり、また、基本的に日刊紙販売に対する価格拘束にもとづくものである。価格拘束については現在論議が進行中である。日本の日刊紙が「古い」媒体から「新しい」媒体に変貌できるための決定的な前提は、価格拘束の排除であるとレアー助教授はみなしている。ガツェン氏(Dr. Barbara Gatzen、オーストラリア国立大学)とゲスマン教授(Prof. Dr. Hilaria Gössmann、トリア大学)による三番目の基調報告は、日本のアジア近隣諸国が毎週放映されるドキュメンタリー番組およびテレビドラマのなかでどのように描かれているのか、という問いをテーマとした。それによると、ほかのアジア諸国に対して、一種の「ノスタルジックな姿勢」が傾向としてはっきり認められる。つまり、こうした諸国には、日本では失われたといわれるエネルギーが漲っている、とみなされているのである。
年次総会初日のクライマックスとなったのは『Visions of Society in the New Media Age(ニューメディア時代における社会ビジョン)』をテーマとするパネルディスカッションであった。マンツェンライタ氏(Dr. Wolfram Manzenreiter、ウイーン大学)の司会により、ヘス教授(Prof. Dr. Thomas Hess、ミュンヘン大学)、奥田慶一郎氏(日本貿易振興協会ベルリンセンター次長)、パセック氏(Oliver Passek、緑の党連邦議会会派)、佐藤孝平氏(Dr.Eng., DoCoMo Communications Laboratories Europe GmbH)およびヴィーメルス氏(Dr. Thomas Wiemers、㈱シーメンス社)がそれぞれの職業経験をもとに、新メディア領域における発展傾向について各々の観点を述べた。
二日目の午前中は経済社会分析が中心となった。ボッセ氏(Dr. Friederike Bosse、ドイツ産業連盟)の基調報告では、インターネットが日本の下請企業と大企業間の関係をいかに変化させるのか、という問題が追究された。伝統的なネットワークが以前にも増して強化されている一方、崩れかかっている様子もみられ、現在まではっきりとした傾向は認められない。つづいてタイヒャー氏(Dr. Kerstin Tei-cher、㈱ベルテルスマン社)が、日本のメディア市場の規模、主要な企業や部分市場の特殊性、構造および規制的枠条件について広範にわたるメディア市場専門領域に関する基調報告を発表した。この報告のなかで、過去二年間における発展と将来の発展傾向が具体的な諸例をもとに示された。シャイア教授(Prof. Dr. Karen Shire、デュースブルク大学)とレンツ教授(Prof. Dr. Ilse Lenz、ボッフム大学)は、日本の労働社会でのジェンダー関係に対する新メディアの影響について理論上かつ経験上の研究結果を発表した。研究の起点となったのは、新メディアが日本の労働社会での性別による広範な職務分離化(ジェンダーリング)傾向を弱めることに貢献するのか、あるいはそれどころか分離化をなくす方向に作用するのか、という問いであった。製造業のコールセンターおよび証券会社における最近の二つのケーススタディーは、新メディアが伝統的な労働関係を維持し、あるいはそれ以上に強化するために用いられ得ることを示している。マンツェンライタ氏は自身の基調報告にて、新しいコミュニケーションメディアによって日本の日常がどの程度変化をみるのか、という問いを追究した。マンツェンライタ氏は1960年以降のこのメディアの発展概要を述べ、現在の普及状況を表す統計と各年齢層の利用状態に関する最新のアンケート結果を紹介した。
三日目の午前中には日独のメディアを政治学と教育学の観点より考察した。ケルナー氏(Dr. Patrick Köllner、アジア学研究所)は日本とドイツ両国の公共ラジオ放送局の人事政策における非公式の決まりと取り扱い方を述べた。ドイツでの人選方法は日本よりも形式が整っているものの、政党の影響は両国ともにはっきりと認められる。ブレヒンガー氏(Dr. Verena Blechinger、ドイツ日本研究所)は、インターネットにホームページを設けている日本の国会議員について、ホームページの内容を調査分析した結果を披露した。日本の代議士の多数はインターネット媒体をコミュニケーション手段というよりも、むしろ自己表示の手段として利用している。政治家と有権者間の距離を縮めるのではなく、コミュニケーション社会での up to date な自分自身の披露を主としている様子が明らかである。今井康雄助教授(東京大学)は、最近激しい論争の的になっている日本の「学級崩壊」と生徒たちの「学力低下」をテーマに基調報告を発表し、このような展開が近年の教育改革にとっての課題とされることが多い、とした。この改革のジレンマは、学習内容の量を削減して考える力を育成することを重視する改革路線が、コミュニケーション社会によってさらに前進するよう強く求められているところにある。このジレンマを今井助教授は一部には自ら招いた事態とみなしており、日本における今日までの教育議論では新メディアとの取り組み方が中途半端である、と批判した。これに対して実践では、日本の学校で活発なメディア活動がどうあり得るかという非常に印象的な諸例も存在する。最後にラングナ氏(Irene Langner、ヴィッテン・ヘルデッケ大学)が日本とドイツ両国の学校でのインターネット学習に関する技術と教育学面での現状を紹介した。コンピュータとインターネットアクセスを有する学校の設備状況および教師のコンピュータ研修に関しては、日独両国において教育政策が技術と社会の進展に遅れをとっている様子が明らかにされた。しかし、総じて日本では同分野に対する教育政策上のイニシアチブがドイツよりも適切に教育学的にバックアップされており、目標を定めて実行されている。ドイツでは連邦制度が系統的なネットワーク化の妨げとなっている。
(DZB Echo, Nr 58, Seite 841)
アニヤ・オシアンダー
(Anja Osiander)
ドレスデン工科大学
現代日本社会科学学会理事